個人事業主は規模に関わらずにすぐに法人(会社)を作ろう

個人事業主の落とし穴

すでに個人事業主をされている方は、創業時に「法人(会社)」にするのか、それとも「個人事業主」で始めるのか悩まれたかと思います。

そして、起業セミナーや税理士の先生のアドバイスで「事業の規模が大きくなるまでは個人事業主でいこう」と考えられた方が多くいらっしゃったのではないでしょうか。

しかしながら、現在の税金・年金の仕組みを考えると、実は事業規模に関わらず「法人」と「個人事業主」をうまく兼用するのが合理的といえます。

個人事業主と法人との違いはいくつかありますが、大きなポイントを書き出すと次のものがあります。

●決算書作成の難易度
●赤字繰り越しが可能な期間
●個人事業主の青色申告よりも経費にできる幅が広がる(個人事業主の経費は非常に限定的)
●所得に対する法人の税率と個人事業主の税率
●国民保険(国民健康保険・国民年金)と社会保険(健康保険・厚生年金)

決算書作成の難易度

個人事業主の方は毎年確定申告で「白色申告」「青色申告の10万円または65万円控除」を作成されてきたかと思いますが、「青色申告の65万円(または55万円)控除」を選択する場合には複式簿記で決算処理をする必要があります。個人事業主として独立する前に企業にお勤めされていて、会計・経理などのご経験があれば複式簿記による決算も難しくはないかもしれませんが、みんながみんなそのような経験をお持ちなわけではありません。そのため、恐らくほとんどの個人事業主の方は難しい複式簿記が不要な「白色申告」か「青色申告の10万円控除」を選択されているかと思います。(注:2020年度より青色申告特別控除は65万円控除・55万円控除・10万円控除の3本立てに税制改正されました。65万円控除を継続するには、電子帳簿保存もしくはe-Taxでの確定申告書の提出が義務づけられています)

一方、法人を作った場合にもやはり複式簿記で決算書を作成する必要が出てきます。しかも決算書の作成は確定申告よりも複雑なため、本などを購入して自分で作成するのではなく税理士にお願いすることが多く、結果的に費用も多く発生してしまいます。

ただ、その費用を差し引いて考えてみても、後述する社会保険に加入するという意味で「法人」を活用したほうが個人事業主のみで事業運営をしているよりもメリットがあるのです。

赤字繰り越しが可能な期間

赤字の繰り越しが可能な期間ですが、個人事業主で青色申告を選択されている場合の繰り越し期間が「3年間」なのに対し、法人の場合は「10年間」と7年間延びます。

個人事業主にしても法人の設立にしても創業時には何かとお金がかかります。また、事業というのは将来の売上などが正確には読みにくいですし、会社員の給与所得とは異なり毎月必ず一定額がもらえるというわけではありません。

この点を考えると、個人事業主で青色申告をしている場合の赤字の繰り越しが3年というのは少し短いかと思います。法人にして赤字の繰り越しが10年間できるようになるということは、たとえ繰り越した赤字額が増えていったとしても、将来的に黒字になった年に過去の赤字と相殺することできるため、その年の法人税などの支払いを抑えることができる、ということなのです。そのため、私は赤字の繰り越しを「赤字貯金」と表現しています。

例えば、個人事業主で初年度に500万円の赤字が出たとします。その後の2期目~5期目までの間に毎年100万円ずつの黒字を出せたとしても、初年度の赤字を相殺することができるのは4期目までの3年間の合計300万円までとなり、相殺できなかった200万円の赤字は繰り越すことができません。所得の金額によって税率は異なりますが、所得税が最低税率であった場合の節税率は15%であり、200万円の赤字によって得られる節税メリットは30万円となるので、赤字はできるだけ繰り越しできた方が良いといえます。

対する法人の場合には赤字の繰り越しが10年間できるため、前述のように赤字貯金を捨ててしまう事態になる可能性は極めて低くなります。

赤字の繰り越し期間が3年間の場合

個人事業主の青色申告よりも経費にできる幅が広がる

多くの個人事業主の方が様々な経費を事業用として計上されているかと思いますが、実は個人事業主の青色申告の経費は「紐づけ」が必要になることをご存知でしょうか。

あまり知られていないのですが、本来「経費」は対象となる「売上」との紐づけがないと計上することが難しく、税務署の調査が入った場合には指摘されてしまい、経費にできる支払いが限定的となってしまうことがあります。

それに対して法人の場合は「紐づけ」の必要はありません。もちろん、まったく関係がない支出を経費とすることはできませんが、事業目的の範囲内で使った費用であればほぼすべて経費計上することができます。

携帯電話、インターネット、駐車場、ガソリンなどにかかった費用も、個人使用分と按分して、6割程度までなら経費計上することができます。

所得に対する法人の税率と個人事業主の税率

法人・個人事業主ともに所得税に課税される税率は累進課税になりますが、その違いを見ていきましょう。

法人の場合、所得があると「法人税」「事業税」「地方法人税」「住民税」が課税され、その合計を「実効法人税率」といいます。所得が400万円までは約26%、400万円超から800万円までが28%、800万円超ですと34%の実効法人税率が課せられます。

法人の実効法人税率

個人事業主の場合は少し複雑になりますが、所得から国民健康保険・国民年金・基礎控除・青色申告特別控除などが控除され、残りの課税所得に対して「国民健康保険税」「所得税」「住民税」「個人事業税」が課税されます。国税庁の発表している個人事業主の平均所得は約400万円ですので、記事では所得400万円の人を例にして説明していきたいと思います。

まず、所得が400万円の人の税率(国民健康保険税・所得税・住民税・個人事業税の合計)は17%です。これに毎年決められる一定額の国民年金保険料を加えると22%になります。先ほどの法人の実効税率と比べ、一見すると個人事業主の税率の方が低いのは確かですが、後ほど詳しくご説明しますように個人事業では経費にできる範囲が限定的であったり、社会保険に加入できなかったりといったデメリットがあります。

個人事業主の税率

また、以後、個人事業主及び法人の税金についての話が続き、複雑になりますので、整理して読み進めていただくために次の「税金の種類・課税方式と対比表」にまとめます。ご参考にしてください。

 

税金の種類・課税方式と対比表
【図表4 税金の種類・課税方式と対比表】

国民保険(国民健康保険・国民年金)と社会保険(健康保険・厚生年金)

個人事業主の方でも、常時雇用する従業員数が5名以上いる場合は社会保険への加入が義務付けられ、5名未満でも任意で社会保険への加入は可能ですが、個人事業主本人と個人事業主の家族は社会保険には加入できません。そのため、大体の個人事業主の方は国民保険(国民健康保険・国民年金)に加入していることと思います。

一方、法人の場合には従業員数に関係なく社会保険への加入が義務付けられています。ただし、従業員がいない状態で「役員報酬をゼロ」もしくは「役員報酬が非常に少ない」場合は、社会保険に加入できない場合があります。

「社会保険への加入」は手間も費用もかかり面倒、というご意見が多いかと思いますが、これこそが個人事業主と法人を兼用することのメリットとなりますので、これから詳細をお伝えします。

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